線維芽細胞(せんいがさいぼう)とは皮膚の真皮層に存在し、コラーゲンやエラスチンなどの皮膚のハリや弾力を担う成分や、潤いを保つヒアルロン酸などの生成を担う細胞です。さらに古くなったこれらの成分を分解して、肌の新陳代謝を促す役割も果たしています。
近年ではこの線維芽細胞を活性化・増殖させて、ハリのある若々しい肌を目指そうとする化粧品や美容法、美容医療施術などが次々に登場していますが、果たして本当に線維芽細胞は増えるのでしょうか?線維芽細胞を増やす方法について皮膚科医が解説します。
線維芽細胞が減る原因
線維芽細胞が減少する最大の原因は加齢です。骨髄の中にある幹細胞の変化を調べると、新生児の幹細胞を100とした場合に、80代では200分の1の量の幹細胞しかないという研究結果があります※。
肌だけでなく、私たちの身体はすべて細胞でできています。寿命を迎えた細胞やケガなどで失われた細胞に代わる新しい細胞は幹細胞によって供給されます。幹細胞は減ることはないと考えられていますが、実際には数が減少していきます。
線維芽細胞は真皮幹細胞(しんぴかんさいぼう)から変化(分化)しますが、同様に真皮幹細胞が消耗して減少することで、線維芽細胞も少なくなってしまいます。
また、紫外線などのダメージを受けることによって、線維芽細胞が生成するコラーゲンやヒアルロン酸、エラスチンなどの真皮成分の量が減少したり、線維芽細胞が分解酵素を過剰に発生して真皮成分を壊したりすることも分かっています。
※Journal of cellular physiology(2007) doi 10.1002/JCP
線維芽細胞が減ると肌はどうなる?
幹細胞だけでなく、線維芽細胞そのものも年齢に伴って減少するという研究結果も明らかになっています。
線維芽細胞の数が減ることで、生成するコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸なども減少します。その結果、肌の弾力や保湿力が低下して、シワやたるみなどの老化現象が現れることになります。
日常で線維芽細胞を増やす方法
患者さんから「減っていく線維芽細胞を増やす方法ありますか?」「線維芽細胞を活性化するには、どうしたらよいですか?」といった質問をいただくことがあります。
医師としてお答えすると、医療的なアプローチ以外で線維芽細胞を増やす方法は、まだ明らかになっていません。
細胞を培養する際にメカニカルストレス(圧力、張力、振動力などの刺激)を与えると、細胞が増殖する場合があるということは確認されていますが、それが運動やマッサージの有効性につながるかどうかは不明です。
逆にお顔のマッサージは強くしすぎると、摩擦によって表皮が炎症を起こして色素沈着したり、皮下組織の変形を招いたりする可能性がありますので、当院ではおすすめしていません。どうしてもしたいという方は、軽く美顔ローラーを当てたり、パッティングしたりして血流を少し良くする程度に止めると良いでしょう。
運動については、有酸素性運動と筋力トレーニングが真皮の厚みを増加させるという論文が2023年に発表されています※。
このように、これからさまざまな研究が進んでいくと、いずれ有効な方法が明らかになってくるでしょう。
こちらも実験レベルのお話しですが、コラーゲンの成熟に欠かせないビタミンCを経皮吸収させると、線維芽細胞の増殖を若干促すことが分かっています。
線維芽細胞を増やすのではなく、減るのを食い止めるというアプローチにおいては、紫外線予防は大切です。紫外線にはUVA(紫外線A波)、UVB(紫外線B波)、UVC(紫外線C波)の3つの波長がありますが、なかでも紫外線A波(UVA)は肌の真皮層まで到達し、線維芽細胞を傷つけます。
紫外線A波(UVA)はガラスを透過して室内にも降り注いでいるため、紫外線が強くなる夏の季節以外でも、普段のスキンケアにプラスしてUVケアを取り入れると安心です。
※ 「筋力トレーニングによる血中成分の変化が皮膚老化の改善に関与することを解明」
食事やサプリメントで線維芽細胞は増やせる?
線維芽細胞を増やす方法と同様に、「線維芽細胞を増やす食べものやサプリメント」は残念ながら明らかになっていません。
ただし先ほどの紫外線予防と同様に、緑黄色野菜を積極的に摂ることで、紫外線による活性酸素ダメージを緩和することができます。体内でビタミンAに変わる抗酸化物質・βカロテン、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質をたくさん含んでいる茄子やトマト、ブロッコリー、人参などの緑黄色野菜を取ることは、線維芽細胞の減少を緩やかにすると考えられます。
健康で美しい素肌は正しい食生活によってつくられます。過度なダイエットや、ファストフードに頼った食生活は身体にも肌にも悪い影響を与えます。中には亜鉛やミネラル類をサプリメントで補うという方もいらっしゃいますが、基本的には食事で摂ることをおすすめします。
不健康な生活の結果として衰えた状態の肌に再生医療を受けるのではなく、日常生活の中で健康に過ごしているけれども抗えない加齢に対しての治療が再生医療である、ということを知って欲しいと思います。
線維芽細胞を増やす美容医療
線維芽細胞は、医療技術によって増やすことができます。
増やす方法には大きく2つのアプローチがあり、ひとつは線維芽細胞そのものを採取して増殖させて移植する方法です。当院の「肌の再生医療(線維芽細胞治療)」がこれにあたります。
もうひとつは線維芽細胞を刺激して活性化する方法です。
例えば肌が傷ついたり、ヤケドなどでタンパク質が変性したりすると、線維芽細胞は活発に代謝を営んでコラーゲンなどを生成して傷を治そうとします。ざっくりとえぐれた傷を縫合すると、縫合した部分からだんだんと肉芽が盛り上がり、皮膚が上皮化(再び表皮で覆われること)して傷が治ります。肉芽の成分は全て線維芽細胞が生成したコラーゲンやヒアルロン酸、エラスチンなどの成分です。
この働きを「創傷治癒過程」と呼び、美容皮膚科ではこの創傷治癒のメカニズムを応用した多くの治療が行われています。針やレーザー等を使用して皮膚にわざと軽い炎症を起こし、創傷治癒のスイッチを入れることで線維芽細胞に不足している弾力成分を生成させて、結果として美にフィードバックされることを目的としています。
いずれの治療も炎症や炎症後の色素沈着を避けるために、大きな影響が出ない程度のダメージに抑えられています。
こうした治療は当院でも提供しています。針を刺すなどの物理的な刺激によって線維芽細胞のスイッチを入れる治療には「ダーマペン」や「ヴァンパイアフェイシャル」があります。
熱ダメージによって皮膚のタンパク質を変性させて線維芽細胞のスイッチを入れる治療には「フォトフェイシャルM22」や「医療ハイフ(HIFU)治療」があります。
また、近年では薬剤を真皮深層まで浸透させて線維芽細胞を刺激するピーリングも登場しています。「マッサージピール」はその代表的な治療です。
線維芽細胞治療は組み合わせたほうが効果的?
「肌の再生医療(線維芽細胞治療)」は根本的に線維芽細胞を増やす治療と言えますが、1回あたりの治療費も高額であるため、当院ではインターバル中にダウンタイムの少ない治療を加えて相乗効果を狙う、組み合わせ治療を提案しています。
また「医療ハイフ(HIFU)治療」には、創傷治癒時の組織修復を手助けしてくれる「PRP治療」との組み合わせ治療を行っており、良好な結果が出ています。
この記事の監修医師
銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士
銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら
井上 肇 客員教授
薬学博士 医学博士
銀座よしえクリニック
再生医療センター 技術責任者
聖マリアンナ医科大学 形成外科
客員教授
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