AGA治療の広告や記事などで「毛根は死滅する」という主張を目にしたことはありませんか? 髪の毛を気にされている方にとっては衝撃的で、毛根が死滅してしまったら二度と毛が生えないのではないかと心配になる方も多いでしょう。
果たして本当に毛根は死滅するのでしょうか? 仮に死滅したとして、その後毛根を復活させることはできるのでしょうか? 薄毛治療に取り組む医師らが、この疑問にお答えします。
体毛の機能と薄毛のメカニズム
体毛は何のために生える?
体毛は基本的に紫外線や刺激、寒さなどの、外部のダメージから体を守る目的で生えていると考えられています。
例えば髪の毛には、紫外線や打撲などの刺激をある程度防御するという働きがあります。眉毛や鼻毛は、目や鼻に異物が入らないように守る役目を果たしています。
脇の毛や陰毛はその他の体毛とは目的が異なり、「アポクリン腺」という汗腺から毛穴を通じてフェロモンを拡散する、一種の臓器として働いています。
体毛が生えるメカニズム
体毛は、毛穴から出ている毛幹、皮膚の下にある毛根、毛根の根元にある毛球に分かれています。さらに、バルジから上を固定部、下を変動部と呼びます。
ヘアサイクルとは、変動部だけが萎縮したり発現したりして、毛が生えたり老け落ちたりをくり返すことです。
この変動部を制御しているのが固定部のバルジ部分です。バルジにある幹細胞からまだ解明されていない複雑な機序で様々な因子が放出されて、変動部の毛球を再生させたり、萎縮させたりしています。
毛根の構造は男女ともに同じ
基本的な毛の構造は、男性・女性ともに全く同じです。
ただし、体毛は体内のホルモンの影響を受けて、濃くなったり薄くなったりするため、見た目に大きな差異が出ます。
例えば、男性のヒゲは女性のヒゲと比べて太くなる傾向にあります。毛包の構造は男女同じでも、支配しているホルモンが異なるため発育や発達が違ってくるのです。
女性特有の薄毛・FPHL(Female Pattern Hair Loss)の原因
近年では、男性のみならず女性で薄毛に悩む方も増えました。
薄毛治療を行うクリニックでは、しばしば女性の脱毛症をFAGA(Female AGA=女性の男性型脱毛症)と呼びます。これはAGA(Androgenetic Alopecia=男性ホルモン型脱毛症)に対して作られた造語ですが、女性の薄毛の病態を正確に表せてはいません。
女性でも男性ホルモンを分泌している事は案外知られていません。女性は加齢に伴い性ホルモン分泌の劇的な変化が生じます。卵巣機能の低下は、女性ホルモンの分泌を不安定にして最終的に閉経を引き起こします。この時に女性ホルモンの減少に伴って相対的に男性ホルモンの機能が優位になることで、AGAと同じ機序で髪の毛が抜ける場合はありますが、女性の薄毛はその他にも、妊娠や出産に伴うホルモンの分泌の変化に身体が変化してついていかなかったり、女性の社会進出は、仕事上の様々なストレスなどに晒される事もあるため、ホルモンバランスの異常が起きたりと、さまざまな原因で起こります。
そのため、日本皮膚科学会のガイドラインでは、女性の薄毛の総称を「FPHL(Female Pattern Hair Loss)」と定義しています※。
※「男性型および女性型脱毛診療ガイドライン 2017年版」
毛根は死滅することがある?
抜け毛や薄毛をくり返した場合に、毛根は死滅するのでしょうか?
毛根には寿命がある?
例えば毛根に寿命がある場合は、寿命を超えてしまうと毛根が死滅するといえるでしょう。
通説によると、1つの毛包で約40回ヘアサイクルを経ると寿命を迎えるのではないかと言われています。例えば、成長期の毛は大体4年~6年ぐらい維持されますが、仮にヘアサイクルが4年だとすると4年×40回で160年が毛根の寿命と仮定できます。
しかし、それは今現在誰も証明していないため、正確な寿命というのはまだ明らかになっていません。
毛根は死滅する?
例えばヘアサイクルの休止期を経て脱毛しても、固定部は存在したままになります。固定部に幹細胞が存在する限り変動部を再生させる能力はゼロではないため、死滅するという表現には疑問が残ります。
円形性脱毛症では、脱毛してしまった頭皮に毛球は認められなくなりますが、また生え揃ってもとに戻ります。一見、毛根は寿命を迎えたように見えますが、毛乳頭や毛母細胞が再生されるのです。
そうしたことから、毛根には寿命がある・毛根は死滅してなくなる、ということには疑問が残ります。長期間の脱毛状態は、毛根が休眠状態になっているという表現が正確だと考えられます。
休眠状態の毛根を復活させる方法とは
毛根が休眠状態になる理由
AGAやFPHLは、ホルモンの影響によって変動部で毛が作られなくなっている状態です。特にAGAは成長期の時期が短くなり、退行期や休止期の時期が長いという特徴があります。固定部がしっかり活動しないため、発毛ができない状態です。
AGAは男性ホルモンであるテストステロンが大きな原因ですが、ストレスや喫煙も大きく影響します。
髪の成長を促す毛乳頭には毛細血管が通っており、血液から栄養や酸素を受け取っています。喫煙やストレスで血行が悪くなると、毛球に栄養や酸素が届かないため、当然弱々しく抜けやすい頭皮になります。
休眠状態の毛根を復活させる自宅でできる対策
ひとつは頭の血行を良くしてあげることです。ご自宅でできるケアとして、頭皮マッサージが有効です。
例えば発毛促進薬の一種にも、毛細血管を広げるお薬があります。血行をよくすることで、毛細血管から細胞に酸素と栄養が届いて、発毛を促したり、今生えている髪の成長を助けることができます。
また毛が成長するには酸素が必要です。
ストレス状態下では、体内の血管が収縮して血流が悪くなる傾向があります。頭皮にある毛細血管も影響を受けるため、酸素(と栄養)が毛母細胞に届きにくくなり、毛が成長しにくくなってしまいます。
なるべくストレスを抱え込まないようにしましょう。
最後に栄養です。様々な微量因子が足りずに毛が生えないケースもあるため、亜鉛やマグネシウムなどのミネラル不足も要注意です。偏食をなくし、生活習慣を見直すことがとても重要です。
毛根を復活させるクリニックの治療
そういった努力を行っても、薄毛がなかなか改善しない場合や、薄毛が進行していくような場合には、疾患としてAGAやFPHLという病気を治す行動が必要になります。
飲み薬にはフィナステリド(代表的商品名:プロペシア)、デュタステリド(同:アボルブ)というお薬が使われています。
外用薬(ぬり薬)で有名なのは、毛細血管を拡張させ高血圧症の治療に用いられるミノキシジルです。
これらのお薬は薄毛治療薬として処方されますが、効果は限定的で進行する薄毛のスピードを遅らせることはあっても、元のように髪の毛を生やすということはなかなか難しいのが現状です。
毛根を復活させる再生医療
そこで1つの切り札として登場した治療が、PRPを使用した再生医療です。
メリットのひとつは、治療法が限られている女性の薄毛に対して効果が期待できる医療技術であることです。
プロペシアやアボルブは男性ホルモンを阻害するお薬で、女性には禁忌です。特に妊娠時の胎児の発達に影響を及ぼしてしまいます。
一方PRPは自分の血液を使用するため副作用がごく少なく安全です。治療のレパートリーが少ない女性の薄毛治療はもちろん、男性ホルモンの影響でダメージを受けた毛包部分の再生も期待できるため、男性のAGA治療にも適しています。
CPC毛髪再生プラスとは
頭皮環境を整えて、毛球に栄養を与えるダブルの作用
当院でも、CPC-PRP®を使った薄毛治療を提供しています。
これはCPC-PRP®と、ヒアルロン酸やビタミン、アミノ酸をベースに作られた製剤「Cellbooster®HAIR (セルブースターヘア)」を同時に頭皮に注入する治療です。
PRPの中に含まれているサイトカインや増殖因子が、毛球を刺激して毛乳頭活性化します。また頭皮に毛細血管を新しく作り出し、血流を改善し、毛球に酸素と栄養を与えます。
特に薄毛になっている頭皮は、緊張度が強く硬い場合が多く、皮下組織も菲薄化してしまっていることが多いです。ここにCPC-PRP®を2回投与すると頭皮の真皮と脂肪組織も含めた皮下組織の再生を促し適度な厚みが出ます。毛を生やす畑を耕すイメージです。
そのうえでセルブースターヘアに含まれる成分が、毛包細胞への栄養供給やサイトカインの効果を持続させ、毛包周囲の血流を増やしたりして、発毛を促進します。
まさに毛根を再生する治療と言えるでしょう。
PRP治療のメリットはこれだけではありません。毛根が1つでも残っていると、1つの毛根から2本、3本の毛が生えてくることです。また毛球が発育するため、毛幹が太くなります。髪のコシが強くなる立体的になり、よりボリューミーに毛が生えているように見えます。
この記事の監修医師
銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士
銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら