痛みが長引く帯状疱疹後神経痛(PHN)と有効な治療とは?

最近、中高齢者の病気としてよく耳にする「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」。帯状疱疹とは、体内に潜んでいるウイルスによって引き起こされる皮膚疾患です。免疫機能の低下によって発症し、痛みを伴う発疹が帯状にあらわれます。
発症時に強い痛みやしびれを感じることがあるほか、帯状疱疹が治った後も、後遺症である神経痛が残ってしまう方がいます。
今回のコラムは、この帯状疱疹後神経痛についての解説するほか、効果が期待できる最新の再生医療もご紹介します。

50歳を過ぎたら気を付ける帯状疱疹とは

帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3型)の感染によって発症する皮膚の病気です。
このウイルスに最初に感染すると、水痘(いわゆる水ぼうそう)を発症します。子供の頃にかかった、あるいは水痘ワクチンを打ったことがあるという方は多いのではないでしょうか。
水痘帯状疱疹ウイルスは賢く、水痘が治ったあともウイルスは死滅せずに体内の神経内に潜伏して残り続けます。体が若くて元気な時期は、ウイルスの活動は免疫機能によって抑制されていますが、加齢や過度な疲労、ストレス、病気などが原因で免疫機能が低下すると、ウイルスが再活性化し、炎症や疼痛をともなういわゆる帯状疱疹を引き起こします。

帯状疱疹の日本人の発生率

調査によると、日本人のウイルスが体内に入ったことを示す水痘抗体保有率は、15歳以上では約90%となっています※1
水痘に罹患した人が全て帯状疱疹を発症するかというと、そうではありません。帯状疱疹を発症する人は約10〜30%※2で、多くの人は体内にウイルスが潜伏したままで一生涯を終えます。
ちなみに水痘に罹患していない人は、帯状疱疹になることはありません。

帯状疱疹の症状とは

帯状疱疹の主な症状は痛みを伴う発疹、しびれ、かゆみなどです。ウイルスが神経を破壊して炎症を起こすため、刺すような強い痛みを感じることもあります。
最初は小さな発疹ですが、やがて水ぶくれに変化して帯状に広がります。その後、水ぶくれが破れてかさぶたになり、だんだんと炎症が治まって症状が落ち着いていきます。

帯状疱疹の症状ができやすい部位

帯状疱疹は、左右どちらかの神経に沿って生じるため、体の正中線を越えて現れることはほとんどありません。
好発部位は頭部、顔、首、腕、背中、胸などの上半身です。まれに耳(耳帯状疱疹)や目(眼部帯状疱疹)、口腔内に発症することがあり、味覚や視力などの機能が著しく損なわれる可能性があるため、これらの部位に症状が現れた場合は、早めに医療機関にかかるようにしてください。

免疫力が低下すると帯状疱疹が発症しやすくなる

一般的に帯状疱疹は、50歳以上の中高年が好発年齢です※3。ちょうどこの年代から、免疫機能が低下していくためと考えられます。
また、罹患しやすい原因としては心労(ストレス)、疲れ、なんらかの病気による体力低下などもあげられます。過度な疲れに体が耐えきれなくなり、弱ったところで発症しやすくなります。

帯状疱疹を早く治す方法とは

帯状疱疹は早期の治療が非常に大切です。ウイルスが最初に繁殖して神経にダメージを与え始めたタイミング(おおよそ72時間以内)に抗ウイルス薬を投与することで、神経損傷を少なく抑えることができます。同時に痛み止めも投与します。
早期にステロイドを投与するかどうかは、医師によって意見が分かれています。ステロイドは免疫力を抑制するため、ウイルスの増殖を助長してしまうという意見もあれば、炎症による神経のダメージを減らして後遺症を予防できるように早期にステロイドを使うという医師もいます。

発症から時間が経ってしまった、あるいはもうすでにウイルスの量が多く神経が損傷されてしまった場合には、疼痛が発症する後遺症が残る可能性があります。これが、帯状疱疹後神経痛と呼ばれる後遺症です。

※1 病原微生物検出情報(IASR). 39(8), 133-135, 2018
※2 国立感染症研究所 帯状疱疹ワクチン ファクトシート 平成29 (2017)年2月10日
※3 年齢群別宮崎県の人口、帯状疱疹患者数と罹患率(1997〜2011 年の平均)より

いつまでも痛みが続く帯状疱疹後神経痛(PHN)

帯状疱疹の後遺症のなかでも、もっとも頻度が高いものは「帯状疱疹後神経痛(PHN)」と呼ばれる神経痛です。皮膚の症状が治った後も、その部位に数カ月から数年、あるいはその後ずっと痛みが残ります。神経痛は疼痛の中でも1、2を争う辛さの痛みですので、発症により睡眠や日常生活に支障をきたすこともあり、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の低下を招きます。

帯状疱疹後神経痛はなぜ起きる?

神経節の中に潜んでいた水痘帯状疱疹ウイルスが活性化すると、神経を傷つけながら炎症を起こして皮膚まで移動し、発疹や水ぶくれなどの皮膚症状を引き起こします。
皮膚症状が治った後も神経の損傷は残ったままのため、神経痛や皮膚に違和感が生じます。痛みの程度は人によって異なりますが、一部の人は強い痛みでうつ症状を発症する方もいます。

年齢が上がるほど帯状疱疹後神経痛は発症しやすい

一般的に年齢が上にいけばいくほど後遺症が残りやすく、50歳以上では約2割の方に残ると言われています※1また、神経損傷が多発していた方や、免疫機能が低下する疾患を有する方も発症しやすくなります。

帯状疱疹後神経痛発症グラフ

比嘉和夫. 治療. 2008; 90(7): 2147-2149. より改変
※1  Takao Y, et al. J Epidemiol. 2015; 25(10): 617-25.

帯状疱疹後神経痛の日常生活でのセルフケア

治療と並行して、辛い痛みを和らげるセルフケアを紹介します。
まずは、なるべく皮膚刺激の少ない素材でできた衣類を着用するようにしましょう。痛みが辛い場合は、患部に冷却剤を当てることで症状が和らぐ場合もあります。
帯状疱疹の一因は免疫機能の低下であるため、バランスの良い食事を心がけましょう。特に損傷した末梢神経を修復する作用があるビタミンB12が含まれている食材を積極的に摂取すると良いでしょう。ビタミンB12は、しじみやアサリなどの貝類、サバやイワシなどの青魚、レバーなどに豊富に含まれています。

帯状疱疹後神経痛は何科を受診すればよい?

体の左右どちらかにピリピリした痛みや違和感などが現れたり、皮膚に赤い発疹が出たりして、帯状疱疹かな?と感じたら皮膚科での受診をお勧めします。
その後の後遺症として痛みや違和感が残る場合は、引き続き皮膚科で治療が可能です。内科でも薬物療法が受けられるほか、神経ブロック注射は整形外科やペインクリニックで受けられます。

痛みを和らげる帯状疱疹後神経痛(PHN)の治療

一般的な治療では消炎鎮痛剤などの痛み止めや、痛みを伝える神経伝達物質の放出を抑える抑制剤(リリカ)、神経の修復に必要なビタミンB12などが処方されます。
痛みを和らげるために、クリニックによっては神経ブロック注射、オピオイド鎮痛薬などが用いられることもあります。痛みが原因でうつ症状がみられる方には、抗うつ薬が処方される場合があります。基本的には薬による疼痛コントロールになります。

帯状疱疹後神経痛の痛みはいつまで続く?

帯状疱疹後神経痛の治療は長期にわたる場合もあり、なかなか痛みが治まらない方もいらっしゃいます。
多くの人は1〜3カ月程度で治まりますが、長く続く場合は激しい痛みが数年〜10年以上続く方もいらっしゃいます。

再生医療による帯状疱疹後神経痛の治療

そこで、通常の治療ではなかなか治らないという方の治療として注目されているのが、再生医療技術を用いた疼痛治療です。
幹細胞の全身投与(第2種再生医療技術)、すなわち点滴は、これまで多くの医療機関で全身性疾患への治療に応用されてきました。最近、慢性疼痛治療に対しても其の有効性が報告され始めてきています。帯状疱疹後の頑固な後遺症である神経痛は、神経障害性疼痛と定義され、慢性疼痛疾患として扱われます。従って、これまでQOLを大きく下げていた帯状疱疹後の神経障害性疼痛を改善する治療技術として大いに効果が期待できます。

自己脂肪由来間葉系幹細胞による点滴療法とは

この点滴療法は、ご自身の脂肪を採取し、脂肪細胞の中に存在する間葉系幹細胞を分離して培養し、必要な量まで増殖させたのちに、この脂肪組織間葉系幹細胞を点滴で全身に投与する治療です。

幹細胞点滴治療に期待できる3つの効果

幹細胞点滴治療には、大きく3つの効果が期待できます。
ひとつは、痛みの原因となる慢性炎症に対する作用です。幹細胞には知覚神経を刺激して皮膚の炎症やかゆみを誘発する炎症性インターロイキンの発現を抑える働きがあります。また、皮膚の炎症部位に集積し、抗炎症サイトカインを放出して炎症にともなう痛みやかゆみの症状を抑制します。
二つ目は、免疫バランスの調整作用です。免疫のバランスが崩れて炎症性サイトカインが過剰に分泌されると、過剰な免疫反応により自己組織を攻撃してしまいます。間葉系の幹細胞から放出するサイトカインには、暴走する免疫を抑制するような働きがあるのではないかと考えられます。
最後は本来機能である幹細胞による組織再生能力です。幹細胞が産生する増殖因子(サイトカインともいう)によって、傷ついた神経細胞の修復・再生を促進する作用です。幹細胞は、損傷を受けている組織周囲に集積する大きな特徴があります。何故集積するのかはまだ細かな原理は不明ですが、幹細胞が損傷を見つけるのではなく、損傷組織の周囲は必ず血管の損傷を伴っているので、損傷組織が発する成分が幹細胞を呼び寄せていると考えられています。すなわちウイルスによって傷つけられた神経細胞の周囲に集積した幹細胞が神経の修復を助け、正常な状態に戻すことが期待できます。

この記事の監修医師

廣瀬嘉恵医師

銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士

  • 東京大学大学院医学研究科修了 医学博士号取得
  • 日本再生医療学会再生医療認定医
  • 日本再生医療学会代議員
  • 日本皮膚科学会会員
  • 日本美容皮膚科学会会員
  • 日本美容外科学会会員
  • 国際抗老化再生医療学会会員
  • 日本温泉気候物理医学会会員

銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら

井上 肇 客員教授 薬学博士 医学博士

井上 肇 客員教授 
薬学博士 医学博士
銀座よしえクリニック 
再生医療センター 技術責任者
聖マリアンナ医科大学 形成外科 
客員教授

  • 星薬科大学大学院薬学研究科修了 薬学博士号取得
  • 日本臨床薬理学会 指導薬剤師・認定薬剤師
  • 聖マリアンナ医科大学大学院 医学博士号取得
  • 日本創傷治癒学会功労会員
  • 日本炎症再生医学会功労会員
  • 日本抗加齢医学会評議員
  • 日本組織移植学会評議員
  • 日本再生医療学会(前代議員)

井上 肇のプロフィール詳細はこちら

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