「幹細胞治療って、どんな治療だろう?」「エイジングケアできるって聞いたけど、どんな効果があるの?」こんな風に思っている方も多いのではないでしょうか。当院でも幹細胞治療がスタートしてから、患者さんからよく質問をいただきます。
新たな治療法として登場した再生医療のひとつである幹細胞治療は、日本に登場してからすでに30年以上が経過しています。このコラムでは、幹細胞治療が始まった経緯から具体的な効果について解説します。
白血病治療として始まった幹細胞治療
日本の幹細胞治療は、骨髄幹細胞の治療から始まりました。骨髄幹細胞の治療とは、骨髄にある造血幹細胞を採取して移植し、白血病の患者さんに正常な造血細胞を移植する治療で、1993年※に日本骨髄バンクによる初の骨髄移植が実施されています。現在では移植医療にカテゴライズされていますが、考え方としてはこの技術は日本の再生医療のルーツになります。
現代では、iPS細胞やES細胞以外の、身体を構成している組織の中にある幹細胞を使用する方法が主流となっています。女性の月経血に含まれる子宮内膜から幹細胞を抽出・培養して移植することで不妊体質の改善を目指す治療や、出産後の臍帯の周囲についているゼリー状の物質(ホウォートンゼリー)から採取される幹細胞を使用する治療も行われています。
当院でも行っている脂肪組織由来の「間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう)」を使用した点滴治療は、疾病に対して多く行われています。
※日本骨髄バンクの沿革
幹細胞点滴治療はどんな病気に効果がある?
これまで日本ではアトピー性皮膚炎や慢性疼痛、更年期障害、欧米では糖尿病に対して幹細胞点滴治療が行われてきました。これは、ご自身の脂肪組織から採取した間葉系幹細胞を培養して、点滴で体内に投与する治療です。
近年注目を浴びているのが、いわゆる難治性の疾患に対する治療です。神経伝達物質であるドパミンが何らかの理由で減少して運動機能に障害が出るパーキンソン病や、呼吸に必要な筋肉がやせていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった疾患に対しても、幹細胞治療が行われるようになりました。
さらに「脳血管疾患」と呼ばれる脳梗塞や、動脈硬化症、心筋梗塞(虚血性心疾患)、肝硬変などの肝疾患、俗にいう脳卒中や交通外傷による脊髄損傷後の運動機能(麻痺)障害に対する治療もスタートしています。
美容医療の幹細胞治療
日本の美容医療界では2007年頃から幹細胞治療が登場し、豊胸術等が行われています。これは、ご自身の脂肪から間葉系幹細胞を取り出して培養し、脂肪とともにバストに注入するという治療で、現在では乳がん後の乳房再建にも応用されています。
またエイジングケアとしての幹細胞治療には以下のものがあります。
シワやたるみなどの皮膚の加齢性変化に対する治療として、ご自身の幹細胞を顔面の皮膚内や皮下に局所注射する方法があります。幹細胞治療はヒアルロン酸とは異なり、注入後に皮膚を支えてシワが埋まるというメカニズムではありません。注入された幹細胞が増殖因子やサイトカインなどを放出することによって、加齢で衰えた皮膚の働きが回復し、結果的に肌が若い頃のように戻ることを狙う治療です。こういった局所性疾患に対しては、注射で行う方法のほうが点滴よりも効果が早く出ると考えられます。
同様の再生医療に、線維芽細胞治療があります。これはご自身の皮膚片から線維芽細胞を取り出して培養し、シワやたるみに対してこの細胞を局所注射する治療です。真皮から培養される線維芽細胞は、真皮内でコラーゲンやヒアルロン酸、エラスチンなどのハリのもととなる弾性線維を生み出します。線維芽細胞は幹細胞ではないため、幹細胞治療とは異なりますが、ダイレクトに美肌成分が生成されるため、幹細胞を注射するよりも早く効果が現れると考えられます。
幹細胞を投与するエイジングケア治療には、脱毛症治療があります。
頭髪のない禿髪の患者さんには、頭皮が薄く皮膚の運動性も少ないという共通項が見受けられます。この薄い頭皮に毛乳頭の細胞や、毛根の細胞という「種」を移植しても育つことは難しいため、まずは「畑」である頭皮を厚くするために行う治療です。点滴だけでなく、局所注射も行われています。
幹細胞治療の美容効果とは
それでは、血管や皮膚に幹細胞を投与・注入してどんな効果が得られるのでしょうか?
幹細胞を点滴すると、損傷している組織に幹細胞が集まって、留まりながらサイトカインを放出し、炎症の鎮静や血管新生、組織の形成促進などをはじめます。これは「ホーミング(集まり)効果」と呼ばれています。
例えば心筋梗塞や、脳梗塞、糖尿病などの内臓疾患などがあると、その損傷周囲は必ず血管や細胞も損傷しているので組織修復をしようとして、手助けしてくれる細胞を求める特徴があります。。幹細胞には血管新生作用や組織修復作用を促進する増殖因子やサイトカインを放出するため、傷んだ組織の修復や再生を促すと期待されています。体の内側がキレイになった結果が、当然肌にもあらわれてくるため、エイジングケアにもつながります。
ただし現在のところ、効果に関する客観的なデータを取得している施設はほとんどないといって良いでしょう。
そのため当院では、治療前後の画像比較などから効果がわかるように、院内データを蓄積しています。幹細胞治療ではありませんが、同じ再生医療であるPRP治療で肌の治療効果の検証した論文も発表されています。この論文には、皮膚の質感(キメ)の改善、弾力性(ハリ)の改善、炎症性色素沈着(シミ)の改善など、皮膚の老化治療の効果が確認された内容が掲載されています。
※論文についての詳しい説明はこちら
いつか幹細胞治療の費用は保険適用になる?
幹細胞治療を受けたいとなっても、現在のところ自由診療のため費用は高額です。病気の治療として健康保険が使える再生医療等製品は、2023年3月時点で22種類※に限られています。
幹細胞を医薬品として許認可するうえで、まだまだ未知の部分が多すぎることが、保険適用されていない一番大きな原因だと考えられます。
例えば、上記で説明した「ホーミング効果」についても、なぜそれが起こるのかは解明されていません。2010年ぐらいに行われたアメリカの動物実験では、最初の24時間は、点滴された幹細胞がほとんど肺に集まって流れ出なくなります。その後の24時間で肺に集まった幹細胞が少しずつ血液中に流れていき、損傷部位に集まることが確認されています。これまでは損傷部位から出る何らかのシグナルを認識して幹細胞が移動するのではないかと考えられてきましたが、近年では幹細胞が血管を流れている間に、損傷部位を治そうとして出てくる細胞の受容体にくっつくような形で集まるのではないかと考えられるようになってきましたが、確証には至っていません。
また現在行われている幹細胞治療は、ガイドラインに沿って安全性に関わる審査基準が規定されていますが、これは保険診療として認められる数の臨床データが揃っていないことも原因にひとつであると考えられます。
ただし近年では、画像研究において、顔面に再生医療を施した際の結合組織の変化や骨の再生を、MRIを使って検討するプロジェクトも進んでいます。
日本における再生医療、すなわち幹細胞治療などは、実施前の審査の際に諸外国からのエビデンスを求められるため、日本が先駆的に再生医療を実施することは事実上困難で、常に諸外国の追従という現状があります。種類によっては安全性が認められている幹細胞でも、使用実績がないということで国内では承認が下りず、苦しんでいる患者さんを治療できないというジレンマに現場は忸怩たる思いをしています。しかし骨髄由来間葉系幹細胞の製剤である「テムセル」のように、きちんと医薬品として認可されている製剤(再生医療等製品)も存在ため、今後は保険適用になる可能性はゼロではないと思います。
※新再生医療等製品の承認品目一覧
銀座よしえクリニックの幹細胞治療
当院では美容皮膚科として、大人のアトピー性皮膚炎に対して幹細胞治療を行っています。幹細胞の働きで、アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみを抑えたり、炎症部位の皮膚の再生を促したりする効果が期待できます。
興味を持たれた方は、お気軽にご相談ください。
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この記事の監修医師
銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士
銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら
井上 肇 客員教授
薬学博士 医学博士
銀座よしえクリニック
再生医療センター 技術責任者
聖マリアンナ医科大学 形成外科
客員教授
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